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東京地方裁判所 昭和56年(行ウ)16号 決定 1982年1月13日

申立人 服部和彦

相手方 国

代理人 吉戒修一 川勝隆之 小野耕造 手塚孝 ほか六名

主文

本件申立てを却下する

理由

一  本件申立ての要旨は、申立人は、雑誌「CLUB VOL 9.No.4」及び同「LORD MENSUEL NO.3―10F」各一冊(以下一括して「本件雑誌」という。)が関税定率法二一条一項三号に規定する「風俗を害すべき物品」に該当しない事実を立証するために、民事訴訟法三一二条一号に基づき相手方に対し、本件雑誌の提出命令を求めるというのである。

なお、右立証のためには本件雑誌が表現している意味内容を証拠資料とする必要があるから、検証ではなく書証としての証拠調が必要である。また、本件雑誌の検証調書に添付されている写真は、相手方らがわいせつと主張する部分だけをカラー撮影したため、その部分がことさらに強調され、本件雑誌の全体的印象とは全く異なるものとなつているから、本件雑誌自体を書証として証拠調をする必要性は大きい。

二  相手方の意見の要旨は、被告東京税関長が昭和五五年三月二九日付で申立人に対し、本件雑誌は輸入禁制品に該当する旨の通知を発した(以下「本件処分」という。)具体的理由は、本件雑誌に掲載の写真がわいせつ性を有するというものであるから、本件処分の適合は右写真のわいせつ性の有無についての判断にかかることになるところ、写真はその外形ないし存在が証拠となるものにすぎないから文書には該当せず、検証の対象物となり得るに止まる。そして、本件雑誌についてはすでに検証が実施され、その結果は検証調書で十分に明らかにされているから、本件雑誌について証拠調を実施する必要はない。

三  よつて検討するに、本案訴訟において被告東京税関長は、輸入禁制品該当通知の処分理由として、本件雑誌に掲載された写真のうち、特定の箇所がわいせつであると主張しているものであり、その余の写真及び英文又は仏文の記事についてのわいせつ性は問題としていないものであるところ、本件雑誌については相手方らの申出に基づき昭和五六年四月一四日に検証が実施され、その検証調書には本件雑誌のうち相手方らがわいせつ性を有すると主張する部分のカラー写真が貼付されているほか、本件雑誌全体の写が添付されていることが記録上明らかである。これによれば本件雑誌については、その全体的印象をも含め検証調書中にすでに明らかにされているということができる。してみれば、右写真のわいせつ性の有無を判断するには右検証の結果により十分であり、仮りに本件雑誌が表現している意味内容が必要であるというならば、申立人において右検証調書を書証として提出すれば足りることであるから、本件雑誌を改めて書証として証拠調をする必要性は認められない。

よつて、本件申立てを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 時岡泰 田中信義 揖斐潔)

【参考】意見書(昭和五六年一二月一七日付け)

被告らは、原告の昭和五六年二月二四日付け文書提出命令申立書及び同年一一月五日付け上申書に係る雑誌二冊(以下「本件雑誌」という。)の文書提出命令申立てに対し、次のとおり意見を申し述べる。

一 本件雑誌についての証拠調べの方法

原告は、本件雑誌につき書証としての証拠調べが必要であるとして右の申立てをするが、次に述るように本件雑誌は書証として扱われるべきではなく、検証物としてのその証拠調べが実施されるべきものである。

被告東京税関長は、昭和五五年三月二九日付けで、原告に対し、本件雑誌につき、輸入禁制品該当通知を発したが、その処分理由は、本件雑誌が風俗を害すべき物品に該当するというものであり、これを具体的に言えば、被告ら準備書面(一)で述べるように、本件雑誌は、女性の露出した性器又は陰毛を明らかに表現した写真が多数掲載されており、これらの写真は、その姿態からみていずれもわいせつ性を有することが認められるというものである。本件雑誌は英文又は仏文と写真とから構成された雑誌であつて、単なる写真集ではないが、右に述べたように、本件雑誌が該当通知の対象となつたのは、雑誌中の写真の部分のわいせつ性にある。したがつて、被告東京税関長のわいせつであるとの認定の適否は本件雑誌中の写真について判断されるべき筋合のものであり、写真以外の本件雑誌中の英文又は仏文の部分は何ら右処分の適否とは関係がないものである。

書証として扱われるべき文書とは、文字ないし符号の組合せによつて人の思想が表現されているものでなければならず、したがつて、写真、見取図、設計図等のようなものは、その外形ないし存在が証拠となるものにすぎないから、文書には当たらず、これらの物はすべて検証の対象物となり得るに止まるとされている(岩松三郎=兼子一編・法律実務講座民事訴訟編四巻二五三ページ)。

してみると、前述したように、本件雑誌はその中の写真が処分の適否を判断するための対象となるものであるから、本件雑誌に係る証拠調べは写真に対する証拠調べ、すなわち検証として実施されなければならないのである。したがつて、これと異なり、本件雑誌につき書証としての証拠調べを求める原告の右申立ては不相当なものとして速やかに排斥されるべきである。

二 本件雑誌についての証拠調べの必要性

以上のように、本件雑誌についての証拠調べは検証によるべきであるところ、被告らの申出に基づき、昭和五六年四月一四日に、本件雑誌につき検証が実施され、その結果は、検証調書の中で十分に明らかにされているのである。したがつて、これ以上、本件雑誌についての証拠調べを実施する必要は全くないといわなければならない。

原告は、上申書において、検証調書では、被告らがわいせつであると主張する部分だけをカラー写真としたために、この部分がさらに強調されていると主張するが、本件該当通知の適否の判断に当たつては、正にわいせつであると主張される部分が調書中において適確に表現されていることが必要なのであり、かつ、それで十分なのである。本件検証調書は十分にこれを満たしており、何ら問題視するいわれはない。

また、原告は、本件検証調書によれば、本件雑誌の全体的印象と謄写部分の印象は全く異なるものとなると主張するが、本件当該通知の適否の判断に当つては、本件雑誌の全体的印象は問題とならないのであつて、あくまでもわいせつであると主張される部分が問題となるのであるから、右の主張は失当であるといわなければならない。

更に、原告は、裁判所の構成が変わつた場合を危惧して本申立てをすると主張するが、仮に、そのような事態となり、新たな構成の裁判所に本件雑誌を提示することを望むのであれば、その時点で再度検証の申立てをすれば足ることである。

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